
今回は、イギリス最大の映画雑誌「EMPIRE」に掲載された、宮崎駿監督のインタビューを翻訳します。 『借りぐらしのアリエッティ』のイギリス公開に合わせて掲載されたものですが、インタビュー自体は2年前のもので、日本の雑誌「CUT」によって行われたインタビューのようです。
宮崎監督の言葉を翻訳するということは、宮崎ファンの僕にとっては恐れ多いことでもあるんですが、ネット上で宮崎監督のインタビュー記事を目にすることはあまりないので、思い切って翻訳してみました。頑張って訳したつもりではありますが、間違いが含まれている可能性があることをご理解いただいた上で、お読み下さい。
なお、9月4日現在、発売中の雑誌「CUT」 9月号には宮崎監督のロングインタビューも掲載されています。
↓以下にインタビュー記事を翻訳してお伝えします。
★ 「カリオストロの城」

宮崎: 実際のところ、この映画を作った当時はヨーロッパの風景や建築様式について、あまり知識がなかったんです。そんなわけで、城の中を描く時には、自分自身にこんな決まりを課しました。「同じ場所は常に2度使うようにしよう」ってね。つまり、もし、あるキャラクターがその場所に行くとすると、後で、もう一度同じ場所に戻ってくるように決めたわけです。
まあ、ゲームみたいなものですよね。そんな感じで設定を決めていきました。「ここに湖が2つ、お城が1つ、こっちにはローマの水道橋があって…。」という具合にね。そうやっているうちに、「よし、これで映画を作れそうだぞ。」と思えてきたんです。うまく出来てたなら良いんですけどね。
★ 「風の谷のナウシカ」

宮崎: 原作の漫画はアニメーションの仕事が一切無い時に描いたものだったんです。とにかく、時間はたくさんありました。だから、絶対アニメ化できない作品にしてやろうと思って描いてました。でも、その後に映画化しなけりゃならないことになったので、非常に困ってしまったんですね。どうやってアニメにしたらいいのか、まるでわかりませんでした。それでも、なんとかして作らなきゃならないという状態でしたね。
どうして、主人公が女性でなければならなかったか? もし男性があんな力を持っていても、本当らしく見えないからですよ! 女性達は、現実の世界とあちら側の世界を行き来することができますから。まるで霊媒のようにね。
ナウシカが優れているのは剣で戦うことじゃありません。人間の世界と蟲の世界を両方とも理解しているという事なんです。彼女が近寄っても、動物たちは警戒しませんしね。男性の場合は攻撃的だし、非常に底が浅いんですよ(笑)。そんなわけですから、主人公は女性でなければならなかったんです。
★ 「天空の城ラピュタ」

宮崎: 大きな夢を持って道を切り開いていく少年を主人公にした、冒険活劇が作りたかったんです。でも、そんな映画はみんな観に行かないんだという事がハッキリわかりましたね。あとになって「ラピュタが大好きです。」と言ってくれる人はたくさんいたんですが、劇場公開の時には、あまり多くのお客さんに来てもらえませんでしたから。
男性というものは、職業を持つことで自分が大人なんだと認識するものです。女性にとっては体の存在そのものが人格を作っていくんですが、男の場合は仕事とか社会的地位、あるいは運命のようなものが必要になってくるんですよ。だから、パズーは子供の労働者という設定にしました。でも、そのせいか、映画に関心を持ってもらうのは非常に大変でしたね。
8歳か9歳の少年がヒーローになる映画が作れたらいいな、と思ってます。今の世界において、少年というものは悲劇的な存在で終わりかねないんです。少年たちが生きていくには、今は非常に難しい世の中だと思いますね。
★ 「となりのトトロ」

宮崎: 悪人を倒せばみんなが幸せになる、という映画がありますよね。ああいう映画は、僕には作れません。子供たちが3歳か4歳になるときに必要なのは、トトロに会う事だと思うんです。そういう、非常に素朴な作品なんですよ。すぐ隣に住んでるんだけど、みんなには見えないお化けが出てくる映画、僕が作りたかったのはそういう映画です。
例えば、森の中を歩いているとき、何かを感じますよね。それが何であるかわからないんだけど、でも確かに何かがいるんです。そういうことって、ありますよね? 僕は何度もそういう経験をしました。つい最近も、僕は2ヶ月ほど古い大きな家に一人で過ごしてたんです。海のそばで崖の上に建っている家でした。そこで一人で部屋にいるはずなのに、別の部屋には「他の人達」がいるような気になってくるんですよ。
散歩に出ようとすると、その間、「他の人達」が寂しがるんじゃないかと思えてくるんです。だから、その人達を喜ばせるために、ラジオをつけて家を出てたんですよ。「自由に音楽を聞いて楽しんで下さい。」ってね(笑)。もちろん、合理的な説明をつけることは可能ですよ。「恐怖から来る精神的な不安が原因だ」とかね。ただ、僕にとっては、やっぱり実際に何かがいるように感じられるんです。いろんな意味で僕は無神経な人間ですが、それでも特定の場所に行くと何かを感じてしまいますね。
アニメの製作中、非常に辛くてスタッフも苦しむ時があります。そんな時には何かイヤな臭いがするんですよ。みんなが仕事を終えて家に帰った後、窓を開けてスタジオの空気を入れ換えるんですが、それでも、その臭いは消えない。そんなイヤな感じを受ける事もあります。そして、僕が思うに、そうした「感じ」というのは、幼い子供たちのほうが大人たちよりも、敏感に受け取るんですよ。その一方で、子供たちは笑顔を見せられるだけで簡単に騙されちゃうものでもあるんですけどね(笑)。大人が歯を見せて笑ってあげれば、彼らは幸せですから!
★ 「魔女の宅急便」

宮崎: 仕事を探そうと、若いアニメーター達が努力する姿から思いついたものなんです。お金を稼いで暮らしを立てる事は、誰もがやっていることだけれど、決して簡単ではありません。そして、この世の中で、どうやって自分の個性を発揮していけばいいんだろうか?という事も、まさに自分自身の人生に関わる事です。そうした、誰もが心配している事を映画にしたんです。
もし、今この映画を作ったら、違った作品になったでしょうね。キキは魔法使いのままでいいでしょう。でも、トンボはまず入学試験に合格して大学に行き、仕事を見つけなきゃならない。それで、ようやくキキに「僕と出かけませんか?」と言えるようになるんですから。ただ、キキは宅急便をやって人々と出会い、時にはちょっと怒ったりしながらも、うまく人生を楽しんでるはずです。そうは言っても、誰もキキが巨大な宅配便の会社を設立して社長の座に就くのを見たい人はいないでしょう?日本じゃなくて、中国あたりで宅配便の社長をやってるキキなんて見たくないですよね(笑)。
★ 「紅の豚」

宮崎: 日本航空がフライト中に機内で流す作品を欲しがってたんです。最初は、あまり乗り気じゃなかったんですよ。こちらがドッグファイトをやりたいと言っても、どうせ断られるだろうと思ってましたからね。でも、それがOKだったんです(笑)。僕の趣味をベースにした軽い作品を作るつもりでした。
ところが、その後、ユーゴスラビアが崩壊して、僕が舞台として設定していたドゥブロヴニクやクロアチア、その周辺の島々で紛争が始まってしまったんです。突如として、現実の世界で戦闘が行われている場所になってしまいました。
そのおかげで、「紅の豚」は複雑な映画になりました。非常に作りにくい映画でしたし、紛争勃発の件に失望するあまり、中年男性向けの映画を作ってしまったんです。常々、スタッフたちには子供たちに見せる映画を作れと言ってきたのに、自分はなにをやってるんだ?と思いましたね。実際には子供たちも映画を見に来てくれたので、次の映画を作るチャンスが与えられたわけです。僕自身がポルコ・ロッソの呪いから解放されたのは、次の映画を作り始めてからですね。
★ 「もののけ姫」

宮崎: 大きなリスクを背負いましたね。「魔女の宅急便」とは全く違う作品でした。僕は「紅の豚」の作品作りを経験して、ユーゴスラビアの方では戦争が始まってしまい、人類というのは過去の失敗から学ばないものなんだということを痛感しました。それ以後、もう昔のような作品は作れなくなってしまったんです。「魔女の宅急便」のような作品はね。
子供たちは祝福されてこの世に生まれてくるものだ、とは思えなくなりました。子供たちに対してどんな風に振る舞えばいいのか?僕らは幸せですと偽っていいのか?そんな疑問を感じたんです。この「もののけ姫」では本当にスタッフをかなり酷使してしまったと思います。彼らは大変だったでしょうが、そうせざるを得なかったんです。
ただ、この作品を作り終えた後になっても、自分がどんな作品を作ったのか、わかってませんでした。最初の頃は、この作品は子供たちの見るべきものではないと思っていましたが、最終的には、いや、この作品は子供たちが見なければならないものなんだと実感しましたね。大人たちはこの作品を見ても理解できなかったんですが、子供たちは理解してくれましたから。僕は、またも子供たちに助けられたんです。また僕は次の映画を作ることができるようになりました。
★ 「千と千尋の神隠し」

宮崎: 友人に娘がいましてね。僕は、その子たちが赤ちゃんの頃からの知り合いですが、彼女たちが10歳と12歳になったとき、こう思ったんですね。「この子らが女性に成長したら、もう自分は距離を置くことになるだろう。もう彼女らのおじさんを演じる必要はない。」とね。でも、この子たちがこれからどんな風に成長していくんだろうかと考えたとき、作品を作ってそれを贈り物にしようじゃないかと思いついたんです。
しかし、この「千と千尋」を作るのは大変でしたね。製作を始めたとき、休日にメインのアニメーター、美術監督、プロデューサーを集めて、この映画の概要と方向性を黒板に書きだしていきました。僕が「ストーリーはこんな感じで、エンディングはこうで…。」と説明すると、プロデューサーの鈴木さんが言うんですね。「それじゃあ、3時間の映画になりますよ。3時間の作品は作りたくありません!」
僕は「わかりました。じゃあ、短くします。」と答えました。たまたま、「カオナシ」という立ってるだけのキャラクターがいたんですが、これを使おうじゃないかということになったんです。急遽、そのキャラクターにスポットが浴びせられ、おかげで映画を2時間にすることができました(笑)。
湯屋があって、お婆さんがいて、神様がいて…。僕はそういう世界が好きなんです。彼らに非常に魅力を感じるんですよね。深みがあって、全く異なるタイプの人達が大勢暮らしている…、僕もそこで一緒に働きたくなるような場所です。そして、それは小さくまとまった世界じゃなくて、広がりのある世界です。雨が降ったら次の日はそこが海になっている事が普通の場所なんです。だからこそ、「千と千尋の神隠し」はあんな映画になりましたし、作るのが大変な映画になったんです。辛いことも多かったし、神経を使うし、作業量も多いしね。なんであんなことをやろうとしたのか、自分でもわかりません(笑)。
★ 「ハウルの動く城」

宮崎: ダイアナ・ウィン・ジョーンズ…、僕は彼女の仕掛けた罠にはまってしまったんです。彼女が書く物語は、女性の読者にとって非常にリアリティのあるものだと思いますね。ただ、彼女は世界がどうやって成り立っているかは気にしないんです。そして、彼女の物語に出てくる男たちは皆、彼女の夫のように悲しげで、静かにそこにいる、という感じでね(笑)。それから、魔法にルールがないんです。抑えが効かなくなる感じなんですよ。
でも、僕はそのルールを説明する映画を作りたくはありませんでした。それをやってしまうと、テレビゲームになっちゃいますから。ですから、映画で魔法のロジックは説明しませんでした。みんな困ってしまったみたいですけどね(笑)。
どうしてそうなったかはわかりませんが、この映画に対する反応は両極端なものでした。ある人達は非常に気に入ってくれましたが、理解出来ないという人たちもたくさんいたんです。恐ろしい経験でしたね。それに、「もののけ姫」、「千と千尋の神隠し」、「ハウルの動く城」のような複雑な映画を監督するのに疲れきってしまいました。もう、これ以上は無理だ!と思ったんです。それで、僕らは方向性を変えることにしました。ポニョのような映画を作ったのは、そういう理由なんです。
★ 「崖の上のポニョ」

海をモチーフにした映画を作りたいと、ずっと夢見てました。ただ、アニメで波を表現するのは非常に難しいんですね。僕にその力量はありませんでした。そこで、絵の動かし方を変えることにしました。海を生き物として扱うことにしようと、考え方を変えてみたわけです。もちろん、海に目を描き込むのは勇気が要りましたよ! でも、たくさんのスタッフが、これを面白いと感じてくれたんですよ。それで、「よし、なんとかなる」と思えましたね。
それと、こんな事も考えました。僕らは子供の頃から長い長い旅を続けてきたけど、一度、5歳の子供に戻ってみようじゃないか、とね。ただ、やっぱり「トトロ」のように無邪気な作品を作っていた頃には戻れなかったんです。それで、「ポニョ」には複雑な要素も入ってしまうことになりました。
無邪気な映画を作りたいのであれば、短い映画のほうがいいんです。長い映画は子供向きじゃありませんしね。今回も、プロデューサーの鈴木さんに「もっと短くできませんか?」と言われ続けたんですが、やっぱり複雑なものにならざるを得ないんです。それで「ポニョ」は101分の映画になりました。
「崖の上のポニョ」で一番好きな箇所はエンドクレジットです。名前を日本語の50音順に並べてみたんです。職種名を入れずにね。大きく貢献してくれた人も、小さなスタジオの人も、エンドクレジットでは平等に扱われています。プロデューサーの名前がどこにあるか、監督の名前がどこなのかもわかりません。スタジオの周りにいる野良猫すら入ってるんですよ、彼らにちゃんと名前もつけてね!
(翻訳終わり)
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多くの方に愛されてきた映画「魔女の宅急便」原作シリーズの6冊セット。シリーズ完結を記念して刊行。13歳の満月の夜に、ひとり立ちの旅に出た魔女の子キキ。多くの旅立ちを経て、遂にあこがれのとんぼさんと結婚。そして、お母さんになります。まだ読んでない方も、このシリーズを読みながらキキと一緒に大きくなった方も、「魔女の宅急便」の世界を丸ごとお楽しみ下さい。 |
以前、このブログでやっていたジブリ映画Amazonレビューの翻訳も、また、近いうちに再開するつもりです。
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